これは、ある商店街に生まれた──
鼻から緑の液体を流す少年の話。
誰もそれを鼻血とは呼ばなかった。
けれど、彼はこう言った。
「鼻がざわつくねん。ガラポンの音が、聞こえるねん。」
福引きの鐘が鳴るたびに、
一枚のティッシュに、
未来のしみが浮かび上がる。
──抽選機は、何かを選び、何かをこぼす。
最初に鼻血を出したのは、チノスケ自身だった。
ティッシュで押さえながら見上げた天井には、何も貼っていなかった。
赤く染まった指先よりも、彼の心を奪ったのは「緑」だった。
夏のはじまり。
商店街のはずれに置かれた一台の抽選機。
「空くじなし」の文字の奥から、チノスケを見つめ返していたのは──
ありえない色の、ありえない運命だった。
彼はまだ知らない。
その緑が、のちに「戦記」と呼ばれる物語の始点になることを。
このページは「緑の鼻血戦記」シリーズのプロローグです。
次章 ▶ 幼少期編:抽選機と運命のはじまり